心臓疾患・不整脈のある高齢者にCHE-Iは高リスク、慎重投与・厳重観察が必要

CHE-I(コリンエステラーゼ阻害薬)という薬は、患者が物忘れを外来で訴えれば、60歳でも90歳でも安易に外来で処方されているのが現状のようです。個人的に「物忘れ外来」というネーミングが好ましいと思えない理由は「物忘れ=認知症=薬」という公式が蔓延しているからです。言語聴覚士や臨床心理士を雇って別室で検査を実施できる特別な認知症専門医療機関を除いては、多くの外来診療では一般内科と混在して時間的に余裕のない状況で「物忘れ」患者を医者1人が診ているのが現状です。物忘れの理由はさまざまで、まず本人が訴える場合は、抑うつ状態または軽度認知障害が多いようです。MMSEなどの簡易的知能検査では22~30点程度です。MMSEが高得点でも行動心理症状・精神症状が先行するFTDやDLBのような疾患もあります。年齢が80歳を超えていれば年齢相応・加齢性変化との区別が難しくなります。他にも甲状腺機能低下、ビタミン欠乏、側頭葉てんかんに伴う健忘症、水頭症、様々な身体疾患に伴うせん妄など、認知症(ATD)以外の原因を慎重に推察する必要があります。しかしそのための十分な問診の時間を確保するのが難しいようで、そのような適応を十分検証することなく免罪符的に初診時からCHE-Iが処方されてしまうケースも少なくないようです。逆に行動心理症状が顕著にもかかわらず、外来でのMMSEが高得点で画像検査でも有意所見がないから「認知症」ではないと言われるケースも多いようです。ともあれ体格の大きくない超高齢者(80~90歳)にもCHE-Iが数多く処方されて、様々な副作用が出現するケースが多いようです。
CHE-Iは中枢神経内において効果を生じるのが主たる薬物動態ですが、中枢神経以外においても自律神経系におけるコリン賦活作用がしばしば問題を起こします。消化器系における副作用、消化管運動を亢進させて下痢・嘔気を誘発しやすい、唾液分泌が亢進して流涎(よだれ)をきたしやすい、泌尿器系を膀胱運動を亢進させて頻尿を誘発しやすいというのはよく知られています。特に高齢者に対して高用量のCHE-Iが使用されている場合はほぼこのような副作用は必発です。しかし案外知られていないのは、循環器系の副作用です。実際よくみかけるのは徐脈であり、30~40/分の高度徐脈の症例をみて肝を冷やした事はこの5年で6~7回程度経験しました。実際薬の使用上の注意として、洞性不整脈、狭心症・心筋梗塞の既往がある場合は慎重投与とされています。個人的には75歳以上の心疾患のある方には初めからCHE-Iを処方しないという選択をします。また高齢者は心疾患に伴う胸部自覚症状が乏しい事が多いため心疾患(不整脈)の存在を認知されていないケースが非常に多く、実際ECG検査をしたら高度のQT延長(0.5s!)というケースもありました。こういう症例に高用量のCHE-Iを処方したらどうなるか。考えただけで恐ろしいです。
海外の「Drug&Aging」という医学雑誌今年の5月15日号では英国の大学教授により「現在使用されているCHE-IとNMDA受容体アンタゴ二ストは効果があっても1年まで」という発表があったようです。おそらく抗認知症薬の必要以上の乱用を心配してのものだと思われます。先日のブログにも書いたようにCHE-IやNMDA-RAには行動心理症状を抑制するという作用もありますので、現在高齢者に処方されているCHE-Iがすべてムダとは思えませんが、必要に応じて副作用の出現しない範囲に留めるべきでしょう。特に心臓の副作用というのは生命にかかわります。薬の副作用で心臓が止まるという事がないように細心の注意を払う必要があります。これまで高度徐脈に気がついたケースは私自身が外来診療で気がついたのではなく、介護者による日常の血圧・脈拍測定が契機となりました。危険な副作用の発見には介護者の日々の観察が欠かせません。昨今は高齢者・認知症に対する抗精神薬の心臓副作用が学会などで問題視されているようですが、CHE-Iに関しても症例や使い方(用量)によっては抗精神薬と同程度のリスクがあると感じています。抗精神薬は危険でCHE-Iは安全という話ではなく、心臓副作用リスクというのは双方にあり、それは用量依存的に増加するという事だと思います。


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by shinyokohama-fc | 2015-06-04 09:51 | 治療
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