精神疾患と神経変性疾患の鑑別検査

認知症の行動心理症状に幻覚・妄想というのがあります。一方で認知機能障害を伴わない高齢者の妄想性精神障害が高齢者人口の急増に比例して最近増えているようです。高齢の独身者(未婚者または未亡人が多い)、独居者、社会的・精神的に孤立者などが多いようです。精神学者のRothにより、遅発性パラフレニー(the natural history of mental disorder in old age)と名つけられています。また遅発性統合失調症なるケースもあり、自分とは無関係の対象への体系化された幻覚・妄想を訴えます。双方とも認知症はまったくないかあってもごく軽度(年齢相応)です。
本来はこういう症状が主体の方は精神症状の対処に精通した精神科医を受診されるのが適切なのですが、私のクリニックにもときどきこういう方が来られます。診察した第一印象ではDLBのような違和感は感じられません。プレコックス感や暗い感じも全くみられません。初対面の人に対する人格・感情・礼節などは保持されているようです。
しかし本人やご家族に話を聞いてみると、幻覚・妄想が自分とは本来無関係の対象にまで体系的に広がり、発展性があるようです。その訴えの内容も自身に対する迫害妄想や色情妄想でより具体的であるため、それに関連した問題行動を起こしてしまうリスクを伴うようです。統合失調症などの精神疾患の病歴がなくても統合失調気質、妄想的人格傾向の方は数多く存在しますので、そういう人々が高齢化による周辺環境の変化により発病してしまう事が少なくないようです。当院に来るまでに前医であらゆる抗精神薬が試されている方もいますが、多くはこういう薬剤が奏功しにくいようです。また薬の長期内服により副作用の問題が懸念されます。若年者と同様に自傷他害に至る危険性が非常に高く、本人の同意を得ない入院の対象になりうるため、精神保健指定医による診療が必須と考えています。
認知症の妄想の多くは家族など身の回りの人を対象とした物盗られ妄想や嫉妬妄想で、DLBにおいても幻覚(幻視・幻聴)と被害妄想を訴えますが、断片的で体系化されておらず、空想的で内容は変化する場合が多いので、周囲の人間が適切な介護ケア対応をすれば問題行動を起こすに至らない事がほとんどです。
遅発性統合失調症やパラフレニーなどと思われる幻覚・妄想を中心とした精神症状で来院される方の多くはATDでみられる認知機能低下はなく、DLBでみられる動作歩行緩慢などのパーキンソニズムがまったくみられません。認知症を診察してきた神経内科医の立場から言うと、やはりATDでは相応の認知機能低下、DLBでは相応の動作歩行緩慢・思考遅延がみられるはずです。典型例DLBのパーキンソニズムはPDのそれに比べると多くは軽度ですが、医療者でなくても誰が見ても第一印象でそれだと目で見てわかるくらいハッキリしています。
昨今はDLBの疾患啓蒙活動が功を奏したためか、DLBの精神症状だけがクローズアップされているようですが、臨床現場ではDLBという疾患はそれほど多いという印象はありません。特に動作歩行障害・パーキンソニズムがまったくみられない(診察上でドパミン欠乏が全く確認できない)、抑うつ症状や激しい幻覚・妄想症状が前面に現れた非典型例の場合は除外診断目的としてダットスキャンを使用したドパミントランスポーターイメージングシンチグラフィー(DTI)という検査が有用ではないかと考えます。逆に言えば臨床的にパーキンソニズム動作歩行障害のハッキリしている症例にこの検査を実施してもほとんど意味はありません。例外的には心因性・演技性パーキンソニズムの場合は、疾病利得的な心理性が強い方が多くて対応に困ります。遠方から遥々付添人なしで単独で来院する方が多いです。こちらがパーキンソン関連疾患ではありませんと説明しても、頑として「自分はパーキンソンだ」と言い張りなかなか納得されませんので、そういうケースではDTIは有用だと思います。DTIという高額な検査を実施せざるをえないのはCT・MRIという形態的検査では精神機能性疾患と神経変性疾患の鑑別が難しいからという理由です。


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by shinyokohama-fc | 2015-05-14 11:44 | 医療
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