純粋無動症(Pure Akinesia)という概念

前回に続いて、「KEY WORD 1998-99 神経変性疾患 先端医学社」の42~43ページから引用です。
レボドパ無効の純粋無動症~すくみのみを呈する症例~ 中村利生・今井壽正
無動症はパーキンソン病に特徴的な臨床症状であるが、レボドパの出現によりパーキンソン病の理解が画期的な進展をみてほどなく、1974年に今井と楢林は、歩行・所持・会話など反復運動の加速とすくみ(無動症の一種)を主徴とし、筋固縮や振戦が全くなく、レボドパが無効な2例を純粋無動症(Pure Akinesia)として報告した。
その臨床的特徴を列挙してみると、
①PAは歩行・書字・会話など反復運動の加速とすくみを主徴とする。
②加速とはこれらの運動が次第に速まり(一定の速さになり)かつ運動の振幅が小さくなることである。小字症(micrographia)は一般に加速書字と並行して出現する
③すくみとはこれらの運動遂行時に止まってしまうことで、運動の一過性の破綻現象である。加速歩行の極限としてすくみ足に至ることもあるが、突然にすくむことも歩行の開始時にすくむこともある。
④加速ーすくみと表裏一体となるkinesie paradoxaleの出現
⑤すくみ足が明らかになると立位で防御反応の低下に伴う後方突進現象(retropulsion)が必発する
⑥四肢に筋固縮や振戦がなく、筋緊張はむしろ低下気味である
⑦痴呆がない
⑧レボドパが無効である
今井はそのうち4例で測定した髄液中のHVAがいずれも正常範囲であったので、この加速ーすくみの主要責任病巣は黒質線条体ドパミン系とは異なる症候群として上記命名(PA)した。今井の自験例では20年間で34例に達した。男性19例、女性15例で、すべて孤発例である。発症年齢は32~73歳、平均61.5歳で、経過観察しえた最長罹病期間は18年である。経過観察しえたPAがその経過中にすくみ以外にどのような症状を随伴してくるかに関心をもった。それはすなわち、1964年にSteeleらが核上性眼球運動麻痺、仮性球麻痺、構音障害、頸部ジストニア、痴呆などを主症状として発表したPSPの臨床症状の複合である。当初PAと診断され、後にPSPと診断され、病理学的にPSPと確認された例もある。臨床的にPAと診断された経過2年の剖検例では、病理学的にPSPと診断されたが、中脳被蓋の所見が乏しいことも判明した。これはPSPの症例のなかにはPAを初発症状とするものがあることを意味する。
<純粋無動症の後発する随伴症状>
①眼球運動障害31 ②開眼失行10 ③頸部ジストニア10 ④嚥下障害8 ⑤軽度痴呆7 ⑥びっくり眼4 ⑦palilalia2
PA/PSP症候群
臨床的にPAとPSPを分離して論じることに不合理な症例を経験した。経過1年で症状は加速ーすくみと側方注視眼振と垂直方向注視麻痺であり、いずれも軽微だが確実である。眼球運動障害を有意にとればすでにPAではない。しかしPSPの臨床診断の必要条件からはほど遠い状態にある。ここにPA/PSP症候群を想定・提唱し、その早期診断のために必須の症状と存在すれば診断を支持・補強する症状を分けて提示してみたい。
<必須症状>
①姿勢反射障害;これはすくみ足とは等価ではないが、すくみが明瞭になれば立位での防御反応の低下に伴い後方突進現象が必発する
②筋固縮;PAでは四肢の筋固縮はないのが普通であるが、頸部の筋固縮の判定はしばしば微妙かつ困難である。頸部のpassiveな前屈で軽い固縮が認められることがある。
③寡動症(動作緩慢);これも加速ーすくみと等価ではないが、PAが明瞭となれば結果的に同様症状に陥る。またこの両者が合併して出現することもある
④レボドパが無効;PAでも一過性にレボドパが有効なことがあるが、著効することはない。
⑤眼球運動障害;眼球運動の神経学に精通していれば、病初期から異常を指摘することができる
以上より、PSPの初期相が常にPAではないが、PAはPSPの初期における一特殊型であり、その頻度はPSPの半数に達すると著者らは推測している
以上が引用です。
2007年にWilliamsらにより、PSPの第3臨床病型としてPSP-PAGF(pure akinesia with gait freezing)と命名され、その臨床診断基準案として以下のように示されています。
①発症が緩徐で、早期に歩行または発語のすくみ現象がある
②持続的なL-ドパの効果がない
③振戦がない
④画像で多発ラクナ梗塞やビンスワンガー病を示唆する所見がない
⑤発症5年以内に四肢の筋固縮、認知症、核上性注視麻痺、血管障害による急性のイベントがない
PSP-PAGFは通常のPSPより罹病期間が平均13年と長く、平均9年目に眼球運動異常が出現していた。PSP-RSと比較して、大脳皮質、線条体、小脳、橋核のタウタンパク蓄積が軽度であったと報告されています。
以前勤務していた職場で、私がカルテの評価欄に「純粋無動症(pure akinesia)」と記したら、専門医にそんな古い言い方は今はしないのではないかと諭されたことがありました。しかし早期からはPSPの診断基準を満たさず、「Pure Akinesia」と評価するしかない症例が実際は少なからず見られます。当院では現在まで23例のPSP症候群と思われる症例を診察しましたが、少なくとも4~5例はそういう症例がありました。その中には前医で「脊髄小脳変性症」と診断されて難病申請までされていたケースもあり、当院の初診時は発症後3年ほど経過していました。小脳性運動失調の評価を四肢でしてみましたが、指鼻・膝踵試験や回内回外運動などにおいて左右は同調しており、小脳失調を示唆する所見は全くみられません。近年の画像診断でも小脳萎縮は確認できませんでした。歩行は開脚性で失調性でした。おそらく前医は失調性開脚歩行=小脳失調だと判断したのでしょうが、前頭葉性失調(Frontal Ataxia)という概念を知らなかったのかもしれません。歩行は他のPSP症候群と同様の典型的な前頭葉性失調歩行であり、上記に列記してあるPure AkinesiaとPSP-PAGFの特徴にほぼ合致していました。特に四肢に筋固縮がみられず、むしろ筋緊張は低下ぎみにみえる事があるので、神経内科の専門医でも小脳変性症と非常に間違われやすいようです。私個人としては「Pure Akinesia(純粋無動症)」という臨床像を表現する用語として大事にしてほしいです。専門医が患者の体に触ったり観察したりする時間を十分とらずに、画像診断偏重になりつつある昨今こそ古くからの臨床神経学をもう一度思い起こしてほしいと思います。今回取り上げた内容はそういう意味で価値があると考えています。


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by shinyokohama-fc | 2015-03-27 19:06 | 医療
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