PSPはなぜPDやDLBと誤認されてしまうのか

PSP症候群(進行性核上性麻痺)がなぜPD(パーキンソン病),DLB(レビー小体病),ATD(アルツハイマー病)と誤認されてしまうのか?実は私自身でも初診時はよく誤認してしまうので、自分なりにその理由を分析しています。「誤診」という言葉は使いたくないので、「誤認」と呼ぶのが適切だと思っています。
<<PSP症候群とPD・DLBの比較>>
<PSPの神経症状>
A初期)
1)よく転んで怪我をする→PD・DLBは慎重で病識が高いので、初期からは転倒しにくい
2)歩きにくい→PD・DLBは初期では継ぎ足歩行が可能で、開脚歩行(ワイドベース)にはならない
3)同じ場所に立っていられない→椅子にドスンと座ってしまうというのはPD・DLBではみられない
4)足が出にくい→強いすくみ現象はPD・DLBでは初期からはみられない
5)体の方向を変えにくい→PD・DLBでは初期からはみられない
6)頸部・体幹が固い(体軸性固縮)→PD・DLBでは上肢・下肢が歯車様に固いが、PSPは特に上肢は固くない
7)環境や状況によって動作レベルが大きく違う(環境依存)→PD・DLBではそれほど環境に影響されない
8)レボドパの効果が不明確→PD・DLBでは薬効によるオン・オフで動作レベルが明確に違う。
9)表情→PD・DLBは暗く笑顔が乏しいが、PSPは明るく笑顔がみられる(笑顔のままというケースも多い)
B中期)
1)言葉がでにくい、口数が少ない(失語)→PD・DLBでは失語はほとんどなく、単調性の構音障害のみ
2)目が動かしにくい(眼球運動麻痺)→PD・DLBではみられない
3)飲み込みにくい(嚥下障害)→PD・DLBではそれほど顕著ではなく、程度も軽い
4)介助なしで歩けない→PD・DLBでは薬剤効果があるので中期でも自立で歩行できる
5)体幹の左右がアンバランス・捻転・傾斜(ジストニア)→PD・DLBでは体幹の左右差はなく、四肢のみ
6)手を触れると磁石のように追随する、つかんで離さない(把握反応・強制把握)→PD・DLBではみられない
7)テーブルの上の物を勝手にさわる(視覚性探索反応)→PD・DLBではみられない
8)指示されないのに目の前の動作を真似る(模倣行動)→PD・DLBではみられない
C後期)
1)後方に倒れる、頸が後屈する→PD・DLBでは起こりえない
中期症状2)~5)がさらに進行した状態、眼球固定・嚥下不可能・発語不可能・起立歩行不可
※PSPは数か月単位で目に見えて神経症状が進行するが、PD・DLBでは年単位でごくわずかな進行しかない
※PSPはB-6)~8)のような前頭葉徴候による身体所見が高頻度に出現する
<PSPの行動心理・精神症状>
・幻覚・妄想
経過中にしばしば現れて、中には初発症状の場合もある。人格水準が著しく低下するので、被害妄想や嫉妬妄想に伴う異常行動、動作障害のため幻覚・妄想に派手さはなく、抗精神薬を必要とするほどではない(ほとんどは抑肝散で十分である)、時に動揺性の意識障害(せん妄状態)と混在する状態に至る
・挿間性の昏迷状態
動作障害が進行した時期(中期)にみられる。突如として外部刺激に反応せず、質問に対して反応が乏しくなり(或いは全く反応しない)、視線が定まらずという状態が数時間持続する。病期が進行すると無動・無言状態に至る
・人格変化(人格退行)
初期)何か人が変わってきた印象、物事に対する視野が狭くなり、人の言う事を聞き入れようとせず、自己中心的な行動をする。興奮しやすく怒りっぽくなる、或いは子供っぽくなり、意味不明の上機嫌さがある
中期)意欲が低下し、周囲に対して無関心となり、物事に対する興味を失って無感動でぼんやりした印象になる
・認知症(皮質下性)
簡易知能スケールにおいて初期~中期ですでに10~20点の中等度レベル(PD・DLBでは25~30点レベル)
<PSPの認知症>高次脳機能は比較的保持されているが、それを活用する能力に問題がある
1)すでに得られている知識を状況に応じて操作しうまく活用する能力の障害
2)思考過程、情報処理過程の緩慢化
3)ある種の記憶障害(記憶の喪失ではなく、素早く思い出す事ができない「失念」タイプ
4)注意力の障害→PD・DLBよりも転倒・怪我が非常に多い
5)意欲の低下、自発性の減退、無関心・無気力(アパシー)
原因は視床やルイ体と脳幹網様体賦活系の結合が断たれるためと推測されている

幻視・嗜眠・認知の変動・動作歩行障害⇒DLBという「誤認」、動作歩行障害⇒PDという「誤認」、認知症=ADという「誤認」は上記のように丁寧に神経・行動心理・認知症の臨床評価をしなければ、常に起こりえます。
当然ですがPSP症候群にはDLB,PD,ADの標準的薬物治療は通用しませんのでご注意ください。私自身もDLBと誤認して誤処方をしてかえって動作障害・行動心理症状を悪化させてしまったケースが数例ほどありました。昨今の傾向としてDLBが第2の認知症としてマスメディアなどで大きくクローズアップされて、医者も患者もそのブームに引っ張られてすぎているように感じられます。患者さんを診て診断基準の項目をチェックするだけになってしまった事が多くなったように思います。診断基準の重要性を否定するわけではないのですが、このような操作的診断のみが病気の診断だと思い込むことによって、臨床医には病気の本質が見えにくくなってしまってるのではないでしょうか?
一番の問題は誤処方により病状が明らかに悪化してしまい、それが修正されずにいるケースが多くみられる事です。
次回はCBS(大脳皮質基底核変性症候群)とPD・DLB・ADの誤認について書きたいと思います。

参考文献)
Albert ML et al;The subcortical dementia of progressive supranuclear palsy. J Neurol Neurosurg Psychiarty 37 : 121-130, 1974
天野直二 ;進行性核上性麻痺にみる精神症状 ;臨床精神医学 20 :1185-1194, 1991


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by shinyokohama-fc | 2015-02-05 19:20 | 医療
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