コリンエステラーゼ阻害剤(CHE-I)と抗コリン剤

当院では薬の副作用でこじれた認知症や神経変性疾患を初診で数多く受け入れているのですが、前医による呆然とするしかない処方が記されたお薬手帳を拝見することが少なくありません。特に最近よく見かけるのが、認知症患者にコリンエステラーゼ阻害薬(CHE-I)を処方した結果、頻尿症状(過活動膀胱)を誘発して、その上で旧来型の抗コリン剤(プロピぺリンやオキシブチニン)を処方するというパターンです。
半年前に79歳の男性でアルツハイマーと診断されている方が来院されました。お住いの近くの総合病院の専門外来でこのような処方(CHE-Iと抗コリン剤の併用)がされてから、傾眠・幻覚症状が悪化したということで、約20km先から遠路遥々当院まで来られました。診察中も嗜眠・朦朧状態でほとんど歩行できず、首垂れ前傾姿勢になっていたようです。原因となっているCHE-Iと抗コリン剤を両方とも中止するように指示しました。両方とも半減期の非常に長い(薬の副作用も長期に遷延する)薬剤で、重度のせん妄状態だったので、薬物中毒の治療薬(注射薬)をしばらく点滴しました。1か月後には首垂れ姿勢は改善して意識も覚醒状態となり自立歩行が可能となりました。もともとCHE-Iの副作用であったであろう頻尿症状も全くみられません。改めて神経学的診察をしてみると、両手とも強制把握反応が著明で、四肢の筋トーヌスで抵抗症(gegenhalten)を認め、歩行は開脚性歩行でしたが、小脳性運動失調は認めませんでした(前頭葉性失調・フロンタルアタキシア)でした。姿勢はやや捻転性の右への体幹傾斜(ジストニア)がみられました。皮質性感覚障害、肢節運動失行もみられたので、臨床診断としてはCBS(大脳皮質基底核変性症)としました。いずれにしても前頭葉系の神経変性疾患であることは間違いなく、臨床的にATDは否定的でした。CBSやPSPなどの前頭葉系の神経変性疾患にCHE-Iを処方すると例外なく精神症状が悪化するのは前述ブログに書いたとおりです。マンチェスターグループがピックコンプレックス(前頭葉系)にカテゴリーしている疾患群なので、CHE-Iで常同行動や行動心理症状がほぼ確実に悪化します。また抗コリン剤ですが、いまだに高齢者や認知症患者に旧来型の薬剤が平然と処方されている現実に驚かされます。「古くからある薬は信用できる」というのはこの薬に関しては通用しません。過活動膀胱の頻尿症状に使用される新型の抗コリン剤は膀胱選択性が高いので、高齢者や認知症患者が内服してもこの症例のように重度のせん妄状態を誘発することもありません。CHE-Iと抗コリン剤というのは相反する作用の薬剤と想定されがちであり、この2つの薬剤を併用するのはマズイのではという意見を以前聞かされた事がありました。たしかに旧来型抗コリン剤を認知症患者に使用するのはこの症例に示したように非常にマズいのですが、膀胱選択性の高い新型抗コリン剤では認知機能を低下させたり、せん妄を誘発したりする事も非常に少ないようです。ある医科大学の泌尿器科の教室が3年間、52施設、145症例で追跡調査しているようです。
CHE-Iもそうですが、同じ系統の薬でも薬剤というのは個別差が大きいものです。時には新しい薬より古い薬が勝る事も(主としてコストパフォーマンスという意味で)あるでしょうが、新しい薬には特に副作用減少という意味でアドバンテージが少なくないことがあります。単純に古ければいい、新しければいいという事ではなく、それぞれの薬剤の特徴をよく知って処方すべきでしょう。特に高齢者や認知症患者には①より安全で副作用の少ない薬剤を使用する、②効果のない薬を漫然と使用しないという事を心掛け、この症例のような著しくQOLを低下させるような重篤な薬害を起こさないように細心の注意を払うべきだと思います。


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by shinyokohama-fc | 2015-01-27 18:22 | 治療
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