PSP症候群/Psudo-DLB

新年おめでとうございます。今年もベッドサイドの臨床神経学をより深める1年にしたいと思います。
昨年のトピックスとしては、DLB(レビー小体病)の中核症状を有しているのだが、DLBの治療薬として有効とされている薬剤が全く通用しない症例がいくつかみられたという事実です。
DLBの治療薬として一般的に有効とされているのは、①コリンエステラーゼ阻害薬(CHE-I;ドネぺジル、リバスチグミンなど)②抑肝散 ③レボドパ/カルビドパ配合剤 ですが、そのどれもがまったく通用しなかったのです。
本来DLBという疾患は薬剤過敏性ですが、言い方を換えると薬剤有効性が高いはずです。それゆえ典型的なDLBであればCHE-IもL/C配合剤も少量で反応し効果を示さないとおかしいわけです。しかしDLBの診断基準として中核症状と支持的特徴に合致していても、いざ投薬してみると①②③が全然通用しないという症例が少なからず存在する事がわかってきました。これらの症例を改めて神経学的診察と画像診断をし直してみると、実はPSP(進行性核上性麻痺)の診断基準に合致している事がわかりました。これらをPSP-psudoDLBとでも呼称することにします。
当初はPSPとPDまたはDLBの混合型かと思いましたが、③が無効・奇異反応(嗜眠やせん妄誘発など)である点からPDやDLBは治療的診断としては否定的だと言わざるをえないというのが私の見解です。
PSPは古典的には50~60歳で発症するRichardson-Syndrome(PSP-RS)と認識されてきましたが、近年の外来診療ではPSP症候群とも言えるさまざまなタイプのPSP病型症例を多数確認しました。先のブログで記載したようにPSP症候群を示す疾患は多くのバリエーションがあります。主として脳幹優位型(PSP-P, PSP-PAGF)と大脳皮質優位型(PSP-CBS,PSP-PNFA,PSP-FTD)に分類されると言われてますが、脳幹と大脳皮質が同時に障害されるタイプもありえると推定されます。要はどの部位が優先的に障害されるかで臨床症候に差が出るだけだと思われます。脳幹と大脳皮質が同時に障害される疾患として代表的なものがDLBです。つまりPSPがDLBと症状が似てしまう(psudo-DLB)というのは障害される部位が類似しているため、十分起こりうる可能性があると考えられます。PSP症候群でもPSP以外にCBD(大脳皮質基底核症候群)や脳血管障害(CVD)が存在します。PSPでもタウ病変が脳幹・前頭葉に広汎分布するPSP-RSやPSP-C、黒質・淡蒼球に限局するPSP-PAGF、大脳皮質に分布するCBSがあると言われています。つまり臨床診断と病理診断を合致させるのはほとんど不可能だというのが現実です。PSP症候群というのはさまざまな疾患の集団ですのでCBSと同じくPSPSと呼ぶのが適切ではないかと考えられます。最も特徴的な症候(中核症状)としては主に3つ挙げられます。①早期からの強い姿勢反射障害(同じ場所に立ち続けるのが困難で椅子にドスンと尻餅をつくように座る)②易転倒性(多くは頭部顔面を打撲する)③すくみ現象(歩き出すまでが苦労するが、歩き出すと比較的安定する傾向) 支持的特徴としては①垂直方向(上下)の眼球運動麻痺②物事を考えるのに時間がかかる(思考遅延)③嚥下障害④非流暢性失語、画像的特徴としては中脳萎縮・前頭葉側頭葉萎縮がありますが、これらは病型により程度がさまざまであり必ずしも症状を反映させるものではないようです。特に最近多くみられる高齢発症のPSP症候群では病気の進行が比較的遅いため、画像よりも早期に出現する臨床症候が優先されるべきだと考えます。
一方のDLBの診断基準を再確認しますと、A)中核症状としては①注意・覚醒レベルの顕著な変動を伴う動揺性の認知障害 ②具体的内容の再現性のある幻視 ③特発性パーキンソニズム(振戦、動作・歩行障害、姿勢反射障害) 、B)示唆性特徴としては①レム睡眠行動障害 ②抗精神薬による過敏性 C)支持的特徴としては①転倒・失神 ②一過性意識障害 ③重度の自律神経症状 ④系統化された妄想 ⑤うつ症状です。
以下に当院で経験したpsudoDLB/PSPSの症例を2例示します。
1)84歳男性
3年前から動作・歩行が困難、特にすくみ足が高度であるのが特徴。さまざまな神経系薬剤が試された。
まずレボドパ/カルビドパで嗜眠・低活動性せん妄が増悪、ドパミンアゴニストはさらに悪化、CHE-Iもせん妄を悪化させ、抑肝散は5gでも嗜眠・過鎮静となる。CDP-コリン注射も一時は効果あったが減弱。という臨床経過で
昨年7月に初診。問診では認知の日内変動、一過性意識障害、易転倒、嗜眠、幻視、薬剤過敏性、姿勢反射障害があり、前医ではDLBと診断されていました。しかし神経学的診察では、安静時振戦はみられず、姿勢反射障害とすくみ現象は非常に強く、四肢の歯車筋固縮は正常~ごく軽度、一方で頸部の筋固縮は強い、垂直性眼球運動麻痺が上下ともあり、思考遅延、嚥下障害、非流暢性の失語(失構音、喚語困難含む)がみられました。臨床的PSPと確信し、画像検査専門クリニックへMRIを依頼したところ、やはり中脳被蓋と前頭葉~側頭葉萎縮が確認され、難病申請をするように伝えました。やはり問診だけではなく、神経学的診察が重要だと改めて思い知らされた症例でした。ちなみにDLB支持的特徴③の重度の自律神経障害は起立性低血圧含めてまったくみられませんでした。PSP症候群には現在まで有効な薬剤治療は確認されていません。私のPSPS経験症例においてはL/C配合剤とCHE-Iは有効性が感じられないので、ほとんどは中止していています。薬剤を中止して症状が悪化する事は全くないようです(ここがPDやDLBとの大きな違い)。代替治療が顕著な効果が確認されたので、現在はそれを続けています。
2)77歳男性
5年前から動作・歩行が困難、すくみ足があるが、やはり変動が大きいとの事。2年前から幻視症状(具体的な小動物、人など)が出現し始め、次第に頻度が増加。それ以外には系統化された妄想、レム睡眠行動障害の既往(現在はなし)、認知の変動、易転倒性、嗜眠があり、やはり前医でDLBと診断されてCHE-IとL/C配合剤が処方されていましたが、ほとんど効果がなかったようです。神経学的診察では四肢の筋固縮は軽度で頸部・体幹の姿勢異常、動作緩慢、姿勢反射異常(前後方突進現象)があり、時計描画テスト(CDT)で時間がかかり(思考遅延)、右半側空間失認がみられました。当初はやや非典型的な点もあるがDLBだろうと診断しました。一番の問題症状は幻視で警察を呼ぶ状況だったので、抑肝散を処方してある程度頻度は減少しました。CHE-Iはドネぺジル3mgからリバスチグミン4.5mgに変更しました。しかし1か月後に9mgへ増量するとまず異常行動が出現し動作歩行レベルも極端に悪化しました。すぐに4.5mgへ減量したものの改善しませんでした。脳梗塞を除外するため、病院へMRI画像診断を依頼したところ、拡散強調画像で異常はみられませんでしたが、中脳被蓋の高度萎縮と前頭葉~側頭葉の内側・外側の高度萎縮(左右差あり)を確認しました。側脳室周辺変化はほとんどなくNPH(正常圧水頭症)は否定されました。画像所見を見た上で改めて神経学的診察をしてみるとやはり上方向の眼球運動麻痺が確認されました。DLBに有効とされるL/C配合剤は動作歩行に効果はなく、CHE-Iも規定通りの増量で奇異反応を示したようで、治療的診断としてもDLBは否定的と判断しました。約半年間で15~20例程度のPSP症候群を診察していますが、今回紹介したpsudoDLBタイプ以外についてもPSPSに共通する治療的診断特徴としては、L/C配合剤とCHE-Iがほぼ無効であるという事だと思います。この点はCBSとほとんど同じで、特にCHE-Iについては増量すると例外なく病状が悪化するので要注意です。この方も薬剤治療が困難と判断したので、代替治療を検討中です。
CHE-Iについてはアルツハイマー型など一部の認知症にしか適応が認められておらず、特にPSPSやCBSにおいては増量すると病状を悪化させるケースが圧倒的に多いので、原則的に使用は控えたほうがいいと考えます。この症候群においては効果が明確ではない不必要な神経系薬剤は投与を続ける意味はなく、むしろ神経系のバランスを崩すだけだというのが現実です。教科書にはどこにも書いていませんが、数々の症例がそう教えてくれました。


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by shinyokohama-fc | 2015-01-06 18:49 | 治療
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