大脳皮質基底核変性症候群(CBS)について

大脳皮質基底核変性症(CBD)はパーキンソン類似症候群として1968年に最初に報告されています。病理学的には4リピートタウの蓄積を示す、タウオパチーの1種とされています。タウオパチーにはアルツハイマー病(AD)、レビー小体病(DLB)、進行性核上性麻痺(PSP)、CBDがありますが、前2者がアミロイドβやシヌクレインが蓄積してからタウが蓄積するのに比べて、後2者はタウのみが蓄積するようです。ただCBDというのは病理的診断であって、その臨床診断としては典型的なCBSの他に進行性非流暢性失語(PNFA)、前頭葉側頭葉型変性症(FTD)、AD,Richardson Syndrome(PSP-RS)などさまざまな形態をとるようです。
臨床的診断名として大脳皮質基底核変性症候群(CBS)とされています。臨床的CBSの死後病理解剖による病理診断としてはCBDの他にPSP,FTD,AD,Prion病なども含まれていて、臨床診断と病理診断を合致させる事は困難です。
特にPSPとは類似したピックコンプレックスとしてカテゴライズされていてしばしばオーバーラップしています。
CBSの中核症状としては左右非対称の鉛管様筋強剛・無動、ミオクローヌス(細かい震え)、他人の手徴候の他に把握反応、皮質性感覚障害、ジストニア肢位(特に上肢が顕著)で早期から歩行障害、体幹姿勢異常(左右の傾き)、構音・嚥下障害、認知症、注意障害、失語症、異常行動、尿失禁などが早期から目立つ事もあります。
臨床神経学的には左右差・非対称性が最大の特徴であり、脳画像検査(MRI/CT/SPECT)でも一側優位性障害が確認される事もあります。上記症状に対してはレボドパなどパーキンソン病薬剤の反応は不良・無効です。
当院で診療したCBSと思われる症例を以下に紹介します。
1) 78歳男性 CBS-FTD
注意障害で初発。前医にてアルツハイマーとの診断でドネぺジル処方されて危険行動・常同行動・易怒が悪化、タムスロシン処方で嗜眠、幻覚、歩行困難などが悪化した。両手の把握反応が顕著で、歩行は開脚性で頸垂れ状態であったが、両薬剤を中止後は劇的に改善したが、体幹傾斜が残る。
考察) 開脚性歩行と把握反応必ずなど前頭葉症状を確認した場合は抗コリン剤とドネぺジルを処方してはいけない。
2) 84歳女性 CBS-PSP
数年前から記憶障害、開脚性の歩行障害感染症による発熱の後に右手の巧緻運動障害(不使用)となり、前医で正常圧水頭症との診断でシャント手術を受けたが悪化傾向、体幹の捻転性ジストニアが顕著で立位保持が不可能となった。
意識は清明だが、デスクの上の物を勝手にさわるなど使用行動がみられ、両手の把握反応も顕著。
考察)上肢の左右差、肢節・体幹ジストニアはCBS特有。運動障害の進行が速いためPSPタイプと推定される。
3) 83歳男性 CBS?
3か月前から自転車運転が危なくなり、平地でもバランス悪くふらつきを自覚するようになった。
開脚性歩行と軽度の体幹傾斜がある。パーキンソニズムなし、認知症なし、行動心理症状なし、小脳失調なし
画像検査;前頭葉~側頭葉外側の萎縮、海馬の萎縮はない。
考察) ごく初期の症状であるが、他の疾患を支持する所見がない、今後の経過観察が重要。
4) 76歳女性 CBS-PA
2年前から右半身の運動障害が顕著。体幹アンバランスで歩行障害、右半身と左半身が常に乖離した様子。記憶・注意障害や思考遅延がみられたが、リバスチグミンが少量で著効。前医でパーキンソン病との診断で抗コリン剤が処方されて意識朦朧状態で動けなくなった。立ち上がる時につかまる必要があるが、平地は何とか歩ける状態。片側性の安静時振戦がみられたが、レボドパが著効して振戦は消失、動作も改善したが、左右アンバランスは不変。
考察)例外的にレボドパ反応性の錐体外路系運動障害が主体のタイプがある。進行は遅く、PDと殆ど変わらない。
5) 71歳男性 CBS-PSP
半年前から歩行障害を自覚したが、前医でパーキンソン治療薬(レボドパやドパミンアゴニスト)を試されたが無効
歩行は開脚性ですくみがみられた。右上肢の巧緻運動障害がみられたが、2~3か月で体幹の傾斜が顕著となり、
独居のため病院へ紹介とした。
考察) 左右差や体幹アンバランスが進行性、運動障害の進行が速いためPSPタイプと推定される。
6) 73歳女性 CBS-PNFA/CBD
数年前から言葉が出にくくなり、自転車で転倒して乗れなくなる。2年前から動作歩行が緩慢となり思考遅延や注意障害も顕著となった。前医でCBSと診断。レボドパを2年処方されているが効果は不明。1年前から動作歩行が悪化して短文も話せない。最近は後方に転倒しやすくなった。表情は明るいが、ほとんど話せず、左半側空間失認が顕著で、半身態勢で体を横にして歩行してしまう。右上肢のみ鉛管状筋強剛、体幹は大きく右へ傾斜。動作は緩慢。
転倒による頭部打撲により脳室内出血に至ったが、奇跡的に回復されてからも平地は介助なしで歩行。
考察) 運動障害の進行が遅く、失語症と視空間失認など大脳皮質症状が顕著なCBDらしいタイプ
7) 62歳女性 CBS-FTD-Pick or Prion?
4年前から記憶障害、遂行機能障害、3年前から左上肢のミオクローヌス、転倒しやすい。アルツハイマー?との診断でドネぺジル10mgが処方された後から興奮性となり、メマンチンを追加されて嗜眠状態となり幻覚などが現れてせん妄状態となり、歩行が不安定でさらに転倒しやすくなる。某病院で免疫系疾患と診断されてステロイド点滴・治療をされてから、さらに歩行が困難、体幹の傾斜が強く食事に時間がかかる、1年前に高熱のため入院。ドネぺジル10mgで続行されていた。鎮静剤を同時投与されて急速に悪化しほとんど無動無言状態に至った。最終的に薬剤は整理されて、ミオクローヌスに対する薬剤としてクロナゼパム、バルプロ酸、ニトラゼパムなどが投与されたが、まだ嗜眠状態が強かったため、家族判断で薬剤を減量して嗜眠状態は軽快した。左側空間無視が顕著、左上肢の屈曲にてミオクローヌスが誘発。左右とも把握反応著明、重度失語状態で話せず、強制泣き・笑いがみられる。
考察) 運動障害・精神障害ともに進行が速いが、ドネぺジルとステロイドが病状をさらに悪化させたと推定された。
8) 83歳男性 CBS-AD
数年前から記憶・見当識・注意障害があり、認知症専門医を受診したが、神経内科受診を勧められた。
左半側空間失認 、ベッドに斜めに寝る(再現性あり)、動作緩慢、思考遅延、非流暢性失語、鉛管様筋強剛左右差、
軽度の体幹傾斜、時計描画不可能、図形模写が困難、不正確。表情は明るく朗らか。
考察) 認知症から発症し、行動心理症状なしのタイプ、CBSの高次脳機能症状は遅発性であるのが特徴的
以上のように各症例はそれぞれ経過も進行度もさまざまですが、CBSとしての特徴的所見の存在は共通しています。いずれに前頭葉障害と高次脳機能障害を神経心理学的に正しく評価することが必要です。
上記症例を見てもわかるようにCBSは初期に高次脳機能障害を正しく評価しないと診断できません。医者が評価できないのであれば、言語聴覚士や臨床心理士などを活用して評価できる体制にしたほうがいいでしょう。安易に認知症中核症状=アルツハイマーとしてしまうのは危険です。CBSには抗認知症薬剤、特にドネぺジルとメマンチンには相性が最悪のようなので使用禁忌とすべきでしょう。安易に抗認知症薬を投与する前に、きちんとした神経所見の評価が必要だと感じられました。現存する神経系の薬剤はほとんど効果がないばかりか、むしろ病状を悪化させる可能性が高いと思われますので、できるだけ使用しないほうがよいと考えます。タウオパチーの根治治療として期待できる「タウ凝集阻害薬」の登場が待たれます。


新横浜フォレストクリニック
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by shinyokohama-fc | 2014-10-31 18:47 | 医療
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