抗精神病薬の死亡リスクを知っているか?

「抗精神病薬の死亡リスク」
認知症患者を対象に抗精神病薬を使用したグループと使用しなかったグループで180日間の死亡リスクを比較した大規模コホート研究があり、それぞれの抗精神病薬の死亡リスクの増加を示した結果が示されました。
ただし、この研究では認知症の重症度と行動心理症状の重症度に関する情報が不確かで、二重盲検試験ではないようです。

JAMA Psychiatry 72(5):438-445, 2015 「認知症のある患者群における抗精神病薬の死亡リスク」
1)ハロペリドール ; A(3.8%) B(26人)
2) リスぺリドール ; A(3.7%) B(27人)
3) オランザピン ; A(2.5%) B(40人)
4) クエチアピン ; A(2.0%) B (50人)
A) 死亡リスク上昇率、B) 1人の死亡が生じるまで何人が投薬を受けるかを示す指数(数が少ないほど危険)

ハロペリドールとリスぺリドンのリスク(危険性)が群を抜いて高いことがわかると思います。
私の臨床経験では、この2つの薬剤は悪性症候群の発生率が高い、すなわち薬剤性のEPS(錐体外路症状)が非常に出やすい薬剤だと言えます。

悪性症候群というのは、わかりやすく言いますと、急速に全身の筋肉がガチガチに固まってしまい、まったく関節が動かない状態になる、あるいは38~40度の高熱が出る、意識がもうろうとなる、という状態です。
それ以外にも、心臓の致死的不整脈が発生しやすく、心臓突然死が多いという報告が昔から言われています。

クエチアピンに関しては、この薬剤性のEPS が比較的少ないと言われていて、PDDやDLBの幻覚・妄想を抑制する薬剤として、認知症学会、神経学会、パーキンソン病学会などが推奨していますが、やはりリスクがあることに変わりはないので、介護者・家族にリスクに関する十分な説明を行い、同意・承認を書面で得ることが必要だと考えます。

「認知症の行動心理症状に対する抗精神病薬の使用は、専門医によることが望ましい」と治療ガイドラインには書かれているようですが、専門医というのは「認知症学会」「老年精神医学会」なのか?「精神科学会」なのか?「神経学会」なのか?どれを指すのかよくわかりません。

一口に行動心理症状と言っても、ATDか、DLBか、PDDか、FTDか、AGDか、PSPS/CBSかでまるで違います。個人的には使っても危険性が低いと言えるのは、75歳以下のATDだけです。
特に危険なのは、DLB、PDD、AGD、PSPS/CBSです。前者は抗精神病薬に対する過敏性があるという事で有名ですが、実は後者も前者以上に過敏性があるという事はあまり知られていません。
また若年発症のFTDに関しては抗精神病薬はほとんど効果がありません。

それゆえ、抗精神病薬を安全に使える認知症症例はほとんど存在しないという事になります。
「ベネフィットとリスクを天秤にかけて総合的に判断せよ」とほとんど現場丸投げの姿勢ですが、私の経験では抗精神病薬の使用によるベネフィットはほとんどないと言えます。効果も2~3か月くらいしか続かず、根本的な解決にはならずです。特に長期使用によるデメリットは計り知れないものがあります。

長期使用で問題になるのは、悪性症候群以外に、嚥下障害、動作歩行障害、姿勢異常⇒転倒、不随意運動などです。
年齢を重ねれば、病気は進行して、正常な神経細胞が減っていくのですから、副作用の出現が避けられないものになるというのは自明の理なのです。それゆえ原則的に短期間の使用にとどめるべきなのだと思います。

最近も薬剤性EPSが少ないと言われているアリピプラゾールですら、わずか1~2mgで歩けなくなったDLBと思われる症例がありました。83歳の女性です。元々脳卒中があり、左片麻痺で杖歩行している方でした。使用目的は幻覚を抑えるためでしたが、デイケアに行けば幻覚はなくなるそうです。脳卒中とか頭部外傷などの既往のある方は特に危険です。

現在、日本には安全に幻覚を抑えられる薬は存在しないと思います。最も幻覚を抑える作用の高い、抗精神病薬はハロペリドールですが、上記のとおり、死亡リスクが高いので、私は処方する事はほとんどありません。
幻覚を抑えるためには、幻覚を起こす原因の薬をやめる、減らすことがまず第一ですが、相変わらず幻覚を誘発しやすい薬剤があちこちで処方され続けているのが現実です。

かなり以前のブログで紹介した、ピマヴァンセリンという薬が幻覚を抑える薬としては現存する薬としては最有力ですが、残念ながら、日本でこの薬が認可されるのはいつになるのか?というのが現状です。
本来禁忌的な薬である抗精神病薬にいつまで頼らなければならないのか?今後は80歳以上の高齢者が激増して、AGD 、PDD、DLB、PSPも増えそうな現状を考えればかなり心配です。

次回のブログでは、幻覚を起こしやすい薬剤について紹介しようと思います。
今われわれにできる事は、高齢者、特に認知症などの神経変性疾患、脳卒中後の方々に対して幻覚をおこしやすい薬を極力使わないという事に尽きると思います。



新横浜フォレストクリニック
内科・漢方内科・老年内科・神経内科

JR・新幹線・横浜市営地下鉄 
新横浜駅 篠原口より徒歩1分






[PR]

# by shinyokohama-fc | 2017-12-09 17:29 | 治療

古寺巡礼(2) 浄真寺・九品仏(浄土宗・東京都世田谷区)

f0349413_15410604.jpg
f0349413_15412306.jpg
f0349413_15422583.jpg
f0349413_15414181.jpg
f0349413_15442299.jpg
f0349413_15420340.jpg
f0349413_15424879.jpg
f0349413_15445701.jpg
f0349413_15453392.jpg
浄真寺(九品仏)は、東急大井町線・九品仏駅(自由が丘の1つ隣)からすぐの場所にあります。新横浜からこちらへ向かうときは、港北インターチェンジから、第三京浜を終点の玉川インターチェンジまで10分ほど走り、玉川ⅠCをおりて10分くらいで九品仏へ到着します。駅からは参道を200mくらい歩いて総門から境内へ入ります。

今回は掲載しませんでしたが、本堂と3つの阿弥陀堂に全部で9体の阿弥陀如来像(仏像)が安置されているので、「九品仏」と呼ばれています。同じような9体の仏像を安置している寺は、浄瑠璃寺(京都府木津川市加茂)がありますが、ここはまだ私が幼い時に父親に連れられて行った記憶があります。
世田谷区のこの地域(自由が丘、奥沢)は住宅街というイメージだったので、正直言ってこのような仏像がある寺があるとは知りませんでした。元々この地には「奥沢城」という城があって、それが廃城になった跡にこの寺が建立されたとのことです。境内に入るとまるで京都か鎌倉にでもいるような別世界に来た雰囲気があります。

写真のとおり、紅葉の名所としても有名です。京都には紅葉で有名な寺社仏閣が数多くありますが、近年は外国人観光客が激増した影響で、あまりにも人が多すぎるようで、私も10年くらい前に行ったときはバスやタクシーの移動もままらない状況だったのを覚えていますので、紅葉をゆっくり楽しむという風情ではないようです。

九品仏の紅葉は、昨年も2回見に行ったのですが、まだ色付き前と散った後だったので、なかなかタイミングが難しいかったのですが、今年はいい時期に行けたと思います。いい写真を撮るために、水曜日の早朝に行きました。ここは早朝でも門が開いているので自由に境内を散歩できるようです。

朝早くから4~5人くらいの中高年の男性や女性が撮影に来ていました。中には本格的な一眼レフカメラを提げている人もいました。私は普通のデジタルカメラでの撮影ですので、それほどいい写真ではないですが、紅葉の彩やかさが少しでも伝わればと思います。

境内には特に大きなイチョウの巨木があり、あざやかなイチョウの黄色それとモミジの赤色とのコントラストがここの紅葉のハイライトではないでしょうか?昨年来たときはすでにモミジが暗赤色になっていて散りかけていたので、今回は一番いい赤色の時期に見れてよかったと思います。


新横浜フォレストクリニック
内科・漢方内科・老年内科・神経内科

JR・新幹線・横浜市営地下鉄 
新横浜駅 篠原口より徒歩1分






[PR]

# by shinyokohama-fc | 2017-12-04 17:27 | 健康

古寺巡礼(1)瑞龍寺(曹洞宗・富山県高岡市)

f0349413_13465423.jpg
f0349413_13461682.jpg
f0349413_13473007.jpg
f0349413_13475292.jpg
f0349413_13484909.jpg
f0349413_13482168.jpg
最近、TV番組で全国の古寺を順次紹介する番組があるので、よく拝見しています。見ているうちに自分でも行ってみたくなり、半年前から鎌倉や東京都内の古寺を廻り始めたところです。

幼少の頃は、父親に連れられて奈良や京都の古寺によく廻ったという記憶があります。小中学校の社会見学などでも京都の有名な寺や比叡山とかに行きました。10年前に横浜に来てからは、奈良や京都からは遠くなりましたが、西ノ京という所に墓があるので、墓参りのついでに薬師寺や唐招提寺に立ち寄りました。

しかし、私にとっては、京都、奈良以外の地域の寺については、ほとんど行ったことも数少なく(高校の修学旅行の中尊寺くらい)で知らないも同然だったので、地方にも立派な寺が数多くあるという事をこのTV番組で知りました。

その中で特に印象深かったのが、今回紹介する富山県高岡市にある「瑞龍寺」でした。曹洞宗の総本山といえば、福井県の「永平寺」と横浜市鶴見区の「総持寺」で、前者は12年ほど前に何かの学会で福井出張時についでに行ったのですが、比叡山や高野山同様に山奥に大きな寺があるというイメージでした。「瑞龍寺」の場合は、高岡の町中、高岡駅から徒歩10分という場所にあり、鶴見駅から徒歩で行ける「総持寺」と同じようにアクセスしやすい場所にあります。

「高岡山・瑞龍寺」という名前ですが、平野(平地)のど真ん中にあるので、いわゆる山という感じではありません。寺の名前の前に「●●山」という呼称がつくのは別の意味があるのかもしれませんが、「寺で修行」というと、山奥でという短絡的なイメージがあります。しかし、京都や奈良に関しては、ほとんどの寺が盆地(平地)、いわゆる街中にあるので、山奥にある寺とは意味合いが違うのかなと思います。

曹洞宗というのは鎌倉時代からの宗派で、「瑞龍寺」に関しては、加賀藩前田家(前田利長公)の菩提寺として、120万石の財力で権勢を揮った前田家によって江戸初期に建立された寺という事です。
前日の夕方に東京駅から北陸新幹線に乗ると、富山駅までは2時間8分で到着しました。途中は上野、大宮、長野しか停車しないので、こんな短時間で行けるのか!と今さらながら驚きました。北陸新幹線に乗るのは初めてでした。富山から高岡までは「あいの風とやま鉄道」で15分くらいでした。

高岡駅前のホテルに宿泊して、朝から目的地を目指して小雨の中を駅から南側へ歩いて行きました。駅の北側は大きなホテルと昔ながらの商店街がありましたが、南側は人気がなくやや寂しい感じでした。

寺の門前まで800mほどの参道があり、八丁道と呼ばれています。両側に松の木が植えられていて、寺の反対方向には前田利長公の「石廟」(重要文化財)がありました。寺の入り口「総門」(重要文化財)は格式のある古寺に相応しい面構えで、その後ろにこの寺の最もハイライトとも言える、左右に金剛力士像を配した「山門」(国宝)が見えるはずなのですが、残念ながら改修中のため覆いにかぶされて外から全体像を見る事はできませんでした。

「総門」から「山門」の間は白い砂利でしたが、「山門」から奥は一面芝生で、中央の総欅造りの「仏殿」(国宝)を挟んで十字路になっていました。「山門」と「法堂」(国宝)をつなぐ長い回廊が四方を取り囲むようにありました。

このような整然とした回廊に囲まれたきれいな左右対称伽藍の配置の寺はこれまでおそらく見た記憶がありませんでした。長い長い回廊を2回3回とゆっくり歩きました。特に印象深かったのは「禅堂」(重要文化財)で、正面に「坐禅」と書いてあり、坐禅修行する建物ですが、食事や睡眠も取れる空間で「禅堂」の周囲を小さな回廊に囲まれた格式のある建物だそうです。

奥には境内で最も大きい総檜造りの「法堂」(国宝)があり、利長公の位牌が安置されていました。その右端奥に珍しい「大茶堂」(重要文化財)がありました。これらの伽藍は鎌倉時代当時の中国の寺院建築を模して建立されたとの事ですが、歴史の深さを実感させられる大変重厚で荘厳な雰囲気がありました。

私はこれまでの人生でおそらく100以上の寺を参拝しましたが、このような寺は初めて見たので大変驚きました。富山でも金沢でもなく、その中間にある「高岡」という街にこのような存在感のある寺がある事にも驚きました。

同じ曹洞宗でも「永平寺」や「総持寺」とは雰囲気の違う寺で、寺というよりも奈良時代や平安時代の宮殿のような趣すらじられました。高岡という街は現在の富山や金沢よりも古く栄えた街と訊きますが、私のイメージでは奈良によく似ているのではないかと思います。

観光客は北陸新幹線の終点、人気のある「金沢」にどうしても集まりがちのようですが、富山県西部の砺波地方にも、この「瑞龍寺」に限らず、有名な古刹や名所がたくさんあるようなので、ぜひ足を運んでほしいと思います。

祝日にもかかわらず観光客が少ないというのがやや気になりました。私としては、次回この地を訪れるときには、南砺地方の浄土真宗の名刹にも足を運んでみたいと思っています。


新横浜フォレストクリニック
内科・漢方内科・老年内科・神経内科

JR・新幹線・横浜市営地下鉄 
新横浜駅 篠原口より徒歩1分






[PR]

# by shinyokohama-fc | 2017-12-02 14:16 | 健康

認知症の正しい診断と正しい薬物治療は不可能

高齢者ブレインバンクにおける、連続剖検において、神経変性疾患の病理診断は嗜銀顆粒性認知症(AGD)は16%、レビー小体型認知症(DLB)は23%、それぞれ混合病理が30~40%という報告でした。

つまり日本人の高齢者(死亡時の年齢)においては、アルツハイマー型認知症(ATD)とAGDとDLBの単独ないし混合で77%(8割弱)を占めることになり、それに次ぐのが、進行性核上性麻痺(PSP)と神経原線維変化型認知症(NFTD)です。一方でピック病は0.5%以下だったそうです。

神経変性疾患の剖検を積極的に行っているある国内の病院の研究発表によると、PSPと皮質基底核変性症 (CBD)に至っては、本来の運動症状が主体で病気がスタートする(発症する)症例は半数以下であり、30~40%は前頭側頭型認知症(FTD)の行動異常、脱抑制、あるいは情緒不安定などの辺縁系症候群で発症し、その後も何年も運動症状が現れないという経過をたどるとのことです。

以上は病理診断の話ですが、私は個人的に、臨床診断と病理診断を合致させるのは、現在の診療ツールでは不可能だと考えます。PSP/PSPSやCBD/CBSの症例を診てきて、それぞれの症例の経過と臨床症状の多様さからみてそれは明らかです。医学的な常識として、薬物治療というのが正しい診断が前提であるとすれば、これらの認知症を含む神経変性疾患には正しい薬物治療というのはほとんど不可能だという結論になります。

私もこのような病気の他の医者の診断を訊いて強く感じるのは、神経変性疾患に対する臨床診断というのは、診察した医者の価値観・経験などに影響された「個人の感想」というレベルにすぎず「思い込み」の要素に多分に左右されるという事です。当然のことながら「正しい診断」が不可能な症候群に対して、そもそも「正しい(薬物)治療」などできるはずもないわけです。ある医者がATDだ、DLBだと診断しても、別の医者はピック病だ、パーキンソン病だとかいうおかしな混乱が起こり、そのたびに薬が変更されたりして、患者は右往左往させられるという問題がおこります。

先のブログで書いたように、前頭葉関連症状=ピック病ではなく、動作歩行障害=パーキンソン病、DLBでもないので、外来医としては何を基準に診断したらいいのかわからないという状況です。私を含めてほとんどの医者は正しい診断もできず、適当な診断をつけて、神経系に作用する劇薬を処方するというわけです。特に80歳以上の高齢者には超劇薬になることも珍しくはないのです。

ATDではないAGDやPSPの患者にコリンエステラーゼ阻害薬を処方しては興奮させてしまう。DLBやAGDの患者に抗精神病を処方して動けなくなる。辺縁系症候群が強いDLBやAGDに対してドパミン刺激剤を処方して
精神錯乱させる。といった混乱が日常茶飯事に起こっているわけです。

本来、コリンエステラーゼ阻害薬は60~70歳くらいで発症した、純粋なアルツハイマー型認知症に対しては効果が認められた薬(効果は1~3年の限定的ではありますが)ですが、80歳以上の症例では、AGDやDLBやPSPを合併する症例が増えますので、そうなると上記のような患者が薬に振り回されるという混乱イベントが増えるのではないかと推定されます。

高齢者の精神症状、辺縁系症候群(情緒障害)と前頭葉関連症候群(脱抑制的行動異常)に関しては、病理統計的にはDLBとAGDが4割ずつで、残りの2割がNFTDではないかと推定されます。ピック病は若年発症で、その病気の性格上、事故や病気で亡くなる方がほとんどで、80歳以上まで生き延びている人はほとんどいないのではないかと思われます。


新横浜フォレストクリニック
内科・漢方内科・老年内科・神経内科

JR・新幹線・横浜市営地下鉄 
新横浜駅 篠原口より徒歩1分






[PR]

# by shinyokohama-fc | 2017-11-18 12:08 | 医療

高齢者の精神症状と嗜銀顆粒性認知症 (AGD・グレイン)

高齢者ブレインバンク、高齢者の変性疾患において積極的に死後の病理解剖 (剖検)を実施して、精密な臨床研究で定評のある医療機関(病院)の近年における論文(文献)や研究発表は臨床医にとって大変参考になります。
高齢者において認知症、精神症状、運動障害など様々な臨床像を呈した症例を数多く剖検して、臨床像と比較検討しているからです。前者の研究によると、高齢者の連続剖検された500例以上の認知症のうち神経変性疾患の内訳は、嗜銀顆粒性認知症(AGD, Argyrophilic Grain Dementia, 通称グレイン)16%、アルツハイマー型認知症(ATD)38%、神経原線維型認知症(NFTD)7%、レビー小体型認知症(DLB)23%、進行性核上性麻痺(PSP)8%、ピック病0.5%、皮質基底核変性症(CBD)0.5%(いずれも混合病理を含む)でした。つまり死後の病理解剖で最も多い病気(病理診断病名)はグレイン(以下AGD)という事になります。また後者の研究では、65歳以上で発症した初期から中期まで精神病性障害が主体で認知症を欠いていた症例グループにおいて、病理診断としてAGDが36%、DLBが36%と有意に高率であり、高齢発症の精神病性障害にAGDが関与している可能性が示唆されています。同じタウ蛋白(4リピートタウ)が脳に異常にたまる病気であるCBDとPSPの病理診断剖検例において、CBD35例では100%、PSP30例の28%でAGD病理を合併していたという結果でした。病理診断CBDにおいて臨床的CBS(皮質基底核症候群)を示したのは半数以下、病理診断PSPにおいてリチャードソン症候群(進行性の姿勢反射障害・嚥下障害・眼球運動障害など)を示したのは60%前後だったそうです。近年の学説では、病理診断PSPとCBDでは精神症状や行動異常から発症する症例がしばしば見られる事が世界的に注目されており、ピック病に類似した臨床像をとることから「ピックコンプレックス」と呼ばれているという事は、以前の当ブログでも繰り返し言及している通りです。
その一方で、外来で臨床診療に携わっているほとんどの神経内科専門医、認知症専門医、精神科医は、アルツハイマー型認知症(ATD)、レビー小体型認知症(DLB)、パーキンソン病(PD)以外の病気はほとんど存在しない、きわめてまれだと認識しているようです。当院に初診で来院される、前医の診断も上の3つが80~90%程度であり、残りは診断不明とされています。しかし実際は、この3年間で私自身が外来で診療してきた症例は、この3つの病気以外としか言いようのない症例、症候群は非常に多いです。これらの臨床像は、皮質基底核症候群(CBS)、リチャードソン症候群、前頭側頭型認知症(脱抑制的行動異常)、発語失行、非流暢性失語などが主症状でした。それらの症状が2~3並存していた症例が非常に多かったように思います。これは60歳以上の高齢者・長寿者の急激な増加が影響しているのではないかと思われます。10~20年前に常識とされていた事は臨床医学の分野ではもはや常識ではないのです。
神経内科の外来では、行動異常や精神症状だけが主訴の症例を診ることはほとんどありません。ほとんどは精神科の外来を受診するのだと思われます。しかしそのような精神症状で発症して、数年間は精神科か認知症専門外来に通院し、抗精神病薬などを処方されて、何年も経過してから、精神症状は軽減してきたが動作歩行などの運動障害が目立ってきたという事で、精神科から神経内科(当院)へ定期通院先を変更するという60~70歳前後の症例が少なからず見られるようです。一方で、80歳以上で精神症状と運動障害が同時に悪化していく症例が多く見られます。
このような症例・症候群の正体はいったい何なのか?運動障害はあるものの、パーキンソン病 (PD)でみられるそれではなくて、どちらかというと皮質基底核症候群やリチャードソン症候群に合致した運動障害です。行動異常・精神症状の多くは激烈なレベルであり、ATDやDLBの行動心理症状(BPSD)とはレベルが違います。自宅で介護に耐えられる同居配偶者・家族は少なく、多くは精神科病院へ入院する事が多いようです。早々に精神病院へ入院してしまう症例は我々神経内科医が診ることはありません。おそらく抗精神病薬など鎮静目的の薬が初期から複数処方されると思われます。そのうちの半数程度は抗精神病薬を開始して半年~一年以内に動作歩行・運動障害が急激に悪化して寝たきり状態になるのではないかと思われますが、その経緯も我々神経内科医の目に触れる事はないでしょう。それらの多くは病気が進行してしまったんだと解釈されてそれで終わりになっているのではないでしょうか?中には、深刻な精神症状をきたす病気になった患者さんでも精神科病院へ入院する事に抵抗して、自宅で看ようと頑張るご家族の方がいます。この3年の私の外来診療ではそういう症例を数多く診てきました。精神科ではない私にとっては非常に不慣れで対応に苦慮しましたが、1つだけ重要な事に気がつきました。CBD、PSP、AGDと推定されるこれらの症例群では共通して抗精神病薬やコリンエステラーゼ阻害薬に対して強い過敏性を示すという事です。私の感覚ではそれはDLB以上の過敏性ではないかと実感しています。過敏性があるがゆえに、ごく少量の抗精神病薬でも効果がある半面、副作用も出やすいようで、姿勢が極端に悪くなったり、歩けなくなったりという症例が続出しました。開始後1~2か月で大丈夫でも、数か月してから姿勢が悪くなる症例もありました。それゆえ、1年前からはこのような症候群に対して、抗精神病薬を処方する事は極力控えることにしました。「抗精神病薬に対する過敏性」という項目は、DLBの診断基準の支持的特徴にされていますが、「抗精神病薬に対する過敏性=DLB」ではなく、「抗精神病薬に対する過敏性=DLB、AGD、PSP、CBDのいずれか」というのが正しい認識ではないかと思います。
ブレインバンクの研究発表によると、AGDは16%(3位)、PSPは8%(4位)でした。私の外来患者で診察しているイメージとだいたい同じです。しかし、多数の認知症を診察している認知症専門外来を標榜する医療機関の外来医は、臨床的PSPSやCBSは診療経験がほとんどなくて診断できないようで、ATD、DLB、MCI(軽度認知障害)以外の病気はよくわからないようです。そのために当院の外来に来る症例は、必然的にPSPSやCBSが多くなったのであろうと思います。
次回のブログでは、臨床像が類似していて鑑別が困難であるAGDとピック病(前頭側頭型変性症)を典型的な症例を通じて比較検証してみたいと思います。前頭側頭型認知症において、AGDは若年発症から高齢発症まで圧倒的多数を占め、ピック病は若年発症だけでごく少数であるという病理診断統計的な事実がある。つまり前頭側頭型認知症は比較的多く見られるが、その大多数はピック病以外のAGDやPSP、その他の病気であるという事です。


新横浜フォレストクリニック
内科・漢方内科・老年内科・神経内科

JR・新幹線・横浜市営地下鉄 
新横浜駅 篠原口より徒歩1分






[PR]

# by shinyokohama-fc | 2017-11-16 12:36 | 医療
line

新横浜フォレストクリニック(横浜市港北区・新横浜駅)の院長が日々綴る様々な情報を発信するブログです


by shinyokohama-fc
line