高齢者の発達障害と神経変性疾患

最近はマスメディアで「大人の発達障害」が盛んにとりあげられるようになったようです。私は精神科医ではないので、この分野についてはよくわかりませんが、知り合いの精神科の先生方に聞くかぎりでは、なかなか既存の薬物治療が効果がなく、対応に苦慮しているようです。
「注意欠陥多動性症候群(ADHD)」「アスペルガー症候群(ASD)」の2つのタイプがあり、2つがオーバーラップするケースもあるそうです。共通しているのは、社会生活に不適応を起こすという点だということです。多くは会社などに入ってから、集団でやる仕事において不協和音の種になるなどと言われています。
近年、福島県の精神科医の先生が、この概念を提唱してから、世間に広く広まったようで、まだこの分野を得意とする精神科医は少ないようで、専門外来はどこも1~5年待ちだそうです。
治療薬はADHDに対して、抗精神病薬である、メチルフェニデート(精神刺激薬)、アトモキセチン(選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)があるようですが、通常は青少年向けの薬ですが、効果には個人差があって、全く効かない患者も多いという話を聞きます。高齢者に処方する場合は安全性はどうなのか?という問題もあります。
かつては、女性は専業主婦が大半であったため、結婚している女性は社会に適応する必要性はありませんでした。どんな人でも見合いなどで結婚していた時代だったからです。夫のほうが仕事に明け暮れて、あまり自宅に戻らない家庭も少なくなかったので、友人も少なく自分の子供以外の人との接触も限られていた女性も多かったのではないかと思います。そういう発達障害の女性に育てられた子供は、その資質を受け継ぎ、かつ母親と長い時間を過ごすようになります。他人との付き合いは不得手ですので、自宅にこもるようになり、母親以上に発達障害の気質が増幅する傾向にあるのではないかと推定されます。
この3年で「認知症」として受診された高齢者のうち、20~30%程度の症例にはベースに何らかの「発達障害」があったのではないか?と思われます。一般的な認知症に伴う行動心理症状のレベルを超えたものが多くて、内科では
対応困難なケースがほとんどではないかと思います。
女性のほうが病気にならず長生きの方が多いので、圧倒的に多いという印象です。多くはその患者に同伴する娘さんがいて、その娘さんの行動(どうでもいい内容で頻繁に電話をかけてきたり、電話で予約時間を何度も変更する、話が通じない、待合室で勝手に食事を始める)などに苦労させられたという印象があります。いくら説明しても「認知症は薬で絶対に完治するんだ」と半ば妄想のように完全に信じ込んでいるため、こちらとの信頼関係が築かれることはなく、1~3回受診して終わりというケースが大半でした。
神経内科で扱う、トリプレット・リピート病、遺伝性の脊髄小脳変性症のように、下の世代に行くほど症状が重くなる傾向があるのかもしれません。
「認知症」と思われている当事者も、実際診察してみると、知能スケールの評価では年齢相応レベルだったり、軽度認知障害(MCI)レベルだったりという事例が多かったように思います。「認知症」以上に普段の「行動異常」が顕著で困っているようでした。その多くは同居する娘さんの言動が悪影響を及ぼしているという、環境的要因が大きかったようです。環境的要因の問題は、人間関係なので、親子で行動異常で戦っている状況では、いくら抗精神病薬を使っても効果は得られません。
こうした症例が増えている現状を考えれば、臨床現場に必要なのは、限られた時間の診察で薬を処方するだけの医者ではなく、ケースワーカー、精神保健福祉士、臨床心理士ではないかと痛感させられます。看護師の方でそういう資格を兼務できる人材ならなおいいのではないかと思います。環境調整、人間関係の調整こそがもっとも現場で求められることではないでしょうか。こういう病気が薬で治るということはないので、粘り強い対応が必要になるでしょう。キュアを目指すのではなく、いかにケアを充実させるかが大事になるでしょう。
一般の内科や脳外科の個人開業医では、こういうスタッフを雇って機能させるだけのスキルや余裕はありません。精神科開業医の一部の先生方がこういうスタッフを複数雇って面倒をみるというスタイルをとっていますが、かなり限定的です。こういう体制であれば親子の大人の発達障害をまとめて面倒みれるのではないかと思います。個人開業医には負担が大きすぎるので、やはりこういう仕事は精神科の病院が担うしかないのではないかと思います。発達障害の親子が高齢化、親のほうが認知症化するにつれて、こういうケースワーカーの仕事の重要性はさらに重要になってくるでしょう。


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# by shinyokohama-fc | 2017-06-19 12:37 | 治療

ドパミンアゴニスト徐放剤+ゾ二サミドが高率に精神症状を誘発

これまで当院へ来られるまでに、深刻な精神症状 (現実味を帯びた幻覚、被害妄想など)をきたしていた方々の多くが、内服薬のドパミンアゴニスト徐放剤 (ロピニロール、プラミペキソール)と抗てんかん剤のゾニサミドを服用していました。多くのケースではドパミンアゴニスト徐放剤 (1日1回の服用薬)を増量する段階で出現しているようです。ゾニサミドは1日50~100mg程度のことが多いようです。それぞれの薬の特色については、以前の2つのブログにくわしく書いてありますので、ご参照ください。
おそらくこの2つの薬剤に関しては、手のふるえに対して効果があるという学説や論文などが多くを占めているので、専門医から処方される傾向があるようですが、手のふるえが軽くなる代償として、ひどい精神症状によって当人は精神錯乱状態となり、家族に多大な迷惑をかけているケースが数多くみられます。手のふるえを軽くするための治療としてはあまりにもハイリスクすぎないかと思います。もちろんこの2種類の薬を同時に併用しても、ドパミンアゴニスト徐放剤を増量しても精神症状が現れない幸運な人もいるとは思いますが、精神症状が出てしまう人は本当に深刻です。最近、患者さんのご家族による当院へ来院前の精神錯乱状態に関する詳細な記録を拝読する機会があり、胸につまるものがありました。ドパミンアゴニスト徐放剤とゾニサミドが使われるようになってから、深刻な精神錯乱レベルの副作用の事例が増えてきたのは、間違いないでしょう。以前「麦角系」のドパミンアゴニスト(ブロモクリプチン、カベルゴリン、ぺルゴリド)を主として使っていた時代はこのような深刻な精神症状をきたす事例は経験も見聞もしなかったように思います。また「非麦角系」のドパミンアゴニスト(ロピニロール、プラミペキソール)が登場した後もそれほどでもなかったと思います。やはり内服薬のドパミンアゴニストが速放剤から徐放剤に変更されてからではないかと思います。私が思うに、欧米人と日本人は明らかに体格・体質が違いすぎるので、 製薬会社主導ではない、大規模臨床試験を実施して副作用を再検証する必要があるのではないかと思います。
神経学会のパーキンソン病治療ガイドラインによると、幻覚・妄想の治療アルゴリズムというのがあり、直近に加えた薬物を中止するようにという指針があり、もちろんドパミン・アゴニスト、ゾニサミドも含まれています。
薬によって副作用が出てしまうのは仕方がないにしても、明らかに深刻な薬の副作用が出て、精神錯乱状態になっているのにもかかわらず、減量しない、中止しない、強制的に続行するという外来医の姿勢に問題があります。
患者側には「拒否権」があります。「ドパミン・アゴニスト、ゾニサミドを開始・増量してから、明らかに幻覚・妄想が出現している場合」に関しては、減薬・中止してもらうように申し出るべきでしょう。外来医は診察室のたかだか1~2分のごく短時間の患者さんの姿しか見ていないので、いかに深刻かを実感できない場合が多いようです。
「パーキンソン病」と診断されたはずの患者が、治療薬が開始されてから、幻覚、妄想、精神錯乱状態に至ってしまうと、なぜか途中から「レビー小体型認知症」にされてしまうというパターンがあまりにも多すぎて、失笑を禁じ得ないというのが私の感想です。「レビー小体型認知症」という病名を途中からわざわざ持ち出す真意はいったい何なのか?専門医による「レビー診断病」に決して騙されないようにしましょう。
個人的にはドパミンアゴニストについては、最初から徐放剤を使うべきではなく、まずは速放剤で2~3か月経過をみてから、徐放剤に変更する、安易にゾニサミドを併用しない。というのがおそらく無難な使い方ではないかと思います。そもそもレボドパを3回以上服用する場合は、ドパミンアゴニストも速放剤のまま1日3回で十分ではないでしょうか?わざわざ精神症状の危険をおかしてまで徐放剤を使う意義があるのか?とすら最近は感じています。
欧米人にはそうではない薬でも日本人にとっては超劇薬。そういう事は珍しくないと考えるべきでしょう。
体重80~90kgの60歳の欧米人と体重30~40kgの80歳の日本人に同じ処方をしようとする事が、そもそもおかしなことではないでしょうか?常識的に考えれば、そんな当たり前のことは誰でも理解できるはずです。


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# by shinyokohama-fc | 2017-06-12 12:36 | 治療

パーキンソン病に処方してはいけない薬、エチゾラム&ゾルピデム

ベンゾジアゼピン系の抗不安薬・睡眠薬、特にエチゾラムは、70歳以上の発症して5年以上経過した、ヤール3度以上のパーキンソン病患者には処方してはいけないと考えます。理由は2つあります。
理由その1、パーキンソン治療薬の効果を妨害することが多い
理由その2、依存性・増量により呼吸抑制、誤嚥による肺炎を誘発しうる
1年前に外来で診ていた患者で、パーキンソン病ヤール3度、72歳男性。発症8年目。レボドパ・カルビドパ300mgとモサプリド15mgを続けていました。
前医で長期にエチゾラムが眠前処方されていて、夜間の唾液~喀痰貯留、呼吸困難があったため、エチゾラムを中止して、非ベンゾジアゼピン系睡眠導入薬に変更したところ、夜間の症状はなくなったようです。
エチゾラムを高齢者になるまで長年処方されている方で、何らかの脳疾患(脳梗塞、脳出血、パーキンソン病など)70~80歳で深刻な誤嚥性肺炎を起こすケースが多いようで、私もこれまで10例前後は経験しています。
それゆえエチゾラムという薬は私は自ら新規処方を開始しない薬です。この薬は筋緊張を緩めるために、パーキンソン病患者にとっては癖になりやすい薬です。ただし薬物依存性が非常に高く、エチゾラム信者になってしまう。最もやめにくい薬です。今年、この薬がようやく処方制限が出ました。今までなぜ放置されてきたのか?と思います。
エチゾラムは飲み始めたら最後、処方し始めたら最後という薬だと言っても過言ではないでしょう。慢性頭痛に筋緊張型頭痛という頭頸部の筋肉の収縮性の頭痛をきたすタイプの頭痛に対しても、安易にエチゾラムを処方する神経内科医がいるようです。海外の常識からすれば考えられないことで、「日本の薬の常識は世界的に非常識」と言えるでしょう。米国では州によっては禁止薬物に指定されている薬が、日本では普通に処方されているというのはどうなのか?と疑問に感じることがしばしばです。
薬物依存を専門に研究している専門家によると、抗不安薬・睡眠薬で問題薬物ベスト6は以下のとおりです。
1) エチゾラム 2) フルニトラゼパム 3) トリアゾラム 4) ゾルピデム 5) べゲタミン (クロールプロマジンとフェノバルビタールの配合剤、特にフェノバルビタールが問題) 6) 二トラゼパム
べゲタミンは特に致死率・死亡率がきわめて高く、自殺企図と肺炎が多いそうです。おそらくクロールプロマジンとフェノバルビタールはどちらも危険な薬ですが、併用というのが神経伝達物質に非常に悪影響を及ぼすのでしょう。
ゾルピデムという薬は、超短時間型の睡眠導入剤で、他のベンゾジアゼピン系睡眠導入剤に比べて、翌朝に持ち越さない、筋弛緩作用が弱く、ふらつきによる転倒イベントが少ないなどの利点が強調されていたため、私も数年前までは処方していました。一時期はこの薬を処方させるためのプロパガンダではないかと思えるくらい、過剰ともいえるベンゾジアゼピン系薬バッシングみたいなムーブメントがあったのを記憶しています。
しかし、この2~3年は、70歳以上のパーキンソン病の患者さんにおいて、他医にてゾルピデムが処方されて、幻覚やせん妄が悪化したり、レム睡眠行動異常が悪化したりという事例が続出しました。これまで他のベンゾジアゼピン系の睡眠薬やゾピクロンではそのような精神症状の副作用は1例もなかったため、非常に驚きました。
パーキンソン病患者の場合は、レム睡眠行動異常が高い確率で併存している、すでにレボドパなどドパミン作動薬を服用している、睡眠覚醒リズムの異常がみられるなど特別な問題があるため、一般よりも幻覚、せん妄などの精神症状が悪化しやすいようです。私がこれまで診てきた、ゾルピデムを服用していた、パーキンソン病患者さんについてはすべての症例でゾルピデムを中止させて、ラメルテオン、少量のプラミペキソール、ゾピクロン、エスゾピクロンなどに変更することによって、精神症状は消失しているようです。


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# by shinyokohama-fc | 2017-06-08 18:46 | 治療

パーキンソン病治療薬の効果を邪魔する薬、酸化マグネシウム (マグミットなど)

パーキンソン病という病気は、動作歩行などの運動症状が現れる、何年も以前から「便秘」の症状が現れる患者さんが多く、パーキンソン病の患者さんの多くは、すでに2~3種類の消化器系の薬剤を服用していることがほとんどのようです。前回のブログでも書きましたが、異常たんぱく質が早期から延髄背側核に問題を起こしますので、その影響で消化管(胃腸)の運動が悪くなると言われています。
便秘への一般的な対処法としては、1日3食で生野菜を食べて十分な食物繊維を取り、食事の時と服薬の時にコップ1杯以上の飲料水を飲むことが推奨されていますが、それでも不十分な頑固な便秘に至る場合が少なくないようで、実際は緩下剤というのが必要とされます。モサプリドはセロトニン受容体刺激により消化管の運動機能を改善する作用があり、神経内科医のパーキンソン病処方においてはかなりの確率で処方されています。長期に服用すると肝機能障害の恐れがあると書いてありますので、モサプリドを服用している方は定期的な血液検査で肝機能が正常範囲かどうかのチェックが必要になりますが、私の経験ではこの薬は概ね副作用が少ない良い薬で、パーキンソン病の自律神経症状である消化管運動障害には欠かせない薬だと言っても過言ではないと思います。
緩下剤として内科でもっとも頻用されている薬、それは酸化マグネシウムです。パーキンソン病患者でも非常によく使われています。しかし、この実際はレボドパというパーキンソン病の治療薬で最も大事な薬とこの酸化マグネシウムや制酸剤 (ヒスタミン受容体遮断剤・ファモチジンなど、プロトンポンプインヒビター・ランソプラゾールなど)が併用されているがために、レボドパの小腸からの吸収が著しく阻害(邪魔)されて、レボドパが脳に十分に到達しないという状態になります。そのためいくらレボドパ(ドパミンの前駆体)を服用しても有効に作用せず、必要以上にレボドパが600~800mgまで増やされてしまうという事が非常によくみられます。レボドパはアミノ酸でパーキンソン病治療薬の中では最も副作用が少ないのですが、400mg以上に増やすと副作用出現頻度が高まると海外の大規模臨床試験では報告されています。パーキンソン病病歴5年以上の患者さんの多くにとってレボドパは運動症状を改善する必要不可欠な薬ですので、その肝心の薬の効果が阻害されるというのはかなりシビアな問題になるのですが、レボドパとマグネシウムを同じ時間に服用している患者さんがどういうわけか非常に多くみられます。
私はパーキンソン病の患者さんには、原則的に酸化マグネシウムを処方しないようにしています。日本人にとっては緩下剤(便秘を解消する薬)としては漢方薬が最も合うということは確認されていますので、パーキンソン病患者さんに対しては漢方薬をファーストで使うべきだと考えています。ただし長年前医にてマグネシウムを処方されている患者さんについては、レボドパを服用して2~3時間後にマグネシウムを服用するように指示しました。そうすることによって発症後20年以上経過した患者さんにおいてもレボドパ(同じ1日量)の効果が著しく上がり、1日の動作レベルが向上したようです。
酸化マグネシウムは腎機能が低下した高齢者では、長期間服用を続けると、「高マグネシウム血症」を起こしやすいと言われています。それゆえ製薬会社からの以下のような注意勧告があります。
・処方に際しては、必要最小限の使用にとどめてください。
・定期的に血清マグネシウムを測定して、高マグネシウム血症の発症に十分注意ください。
・高マグネシウム血症の症状が現れた場合は、直ちに医療機関を受診するようにご指導ください。
①血清マグネシウム5.0mg/dl以上 ; 悪心、嘔吐、徐脈、起立性低血圧、筋力低下、嗜眠、倦怠感、無気力
②血清マグネシウム6.0~12.0mg/dl ; 房室ブロック、QT延長症候群、嚥下障害、筋肉麻痺、血圧低下
③血清マグネシウム18.0mg/dl以上 ; 昏睡、呼吸筋麻痺、血圧低下、心停止
①~②くらいの症例は、75歳以上でマグネシウムを長期服用している、体重30~45kg程度の虚弱な女性であれば、よく見かけるはずです。しかし血清マグネシウムが定期的に測定されているケースは残念ながら非常に希少のようです。以前のブログで何度も取り上げている、高力価・高用量のコリンエステラーゼ阻害薬 (リバスチグミン18mgやドネぺジル5~10mg)と併用していれば、相互作用増強で心臓不整脈のリスクが高まるでしょうし、レボドパ・ドパミンアゴニストなどパーキンソン治療薬が高用量で使用されていれば、低血圧による失神など自律神経不全の悪化のリスクが高まるであろうと推定されます。
パーキンソン病患者の高齢者で当たり前のようにどこでも使われている薬だからこそ、要注意なのだと思います。


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# by shinyokohama-fc | 2017-06-05 19:07 | 治療

パーキンソン病治療薬の副作用の治療薬?ドンペリドン(ナウゼリン)

ドンペリドン(商品名:ナウゼリン)は長年制吐剤として、「悪心・嘔吐」に対して一般臨床医にとても頻用されてきた薬です。私自身も若い頃は、この薬の事をよく知りもせずに「先輩医が使っているから」という理由だけで処方していました。恥ずかしながら、この薬が「向精神薬」だという重大な事実を認識せずに使用していました。
気が付くきっかけは、ジェネリック推奨になった10年前でした。「ドンペリドン」という名前は「リスぺリドン」にそっくりだという事に遅まきながら気が付きました。リスぺリドン(商品名:リスパダール)はご存知のように、非常に強力な力価の「向精神薬・抗精神病薬」です。数年前に施設入所中の患者を診ていたときに、ひどい精神症状で介護困難であった高齢者症例に対して、当時紹介した精神科医からリスぺリドンが1~3mgで処方されてから、急激に動作歩行が悪化して、全身がガチガチに硬直してしまった症例が何名かいたのを覚えています。このときこの薬がいかに強力すぎる薬かを実感しました。仕方なく使うとしても頓服で使用すべきでしたが、ずっと連日服用していたのも問題だったと思います。それ以後は65歳以上の高齢者には自ら処方することはなくなりました。元々加齢に伴ってドパミン減少している高齢者が連日服用してしまうと、悲惨な転帰を招いてしまうということです。
神経遮断系の抗精神病薬に共通した、深刻な副作用として「心臓のリズム異常」が知られています。以前のブログにも何度か書いていたと思いますが、心電図のQT間隔が延長して、致死的な徐脈性不整脈、心室性不整脈を引き起こすということです。近年のことですが、2005年以後、カナダとオランダの疫学研究で、ドンペリドン服用者では、心臓の突然死が1.6~3.7倍も起こりやすいことが示されました。欧州医薬品庁(EMA)が2014年にドンペリドンを使用する際は「できるだけ投与量を少なく、使用期間を短くして使うように」というコメントがありました。フランスのプレスクリール誌は、ドンペリドンに関連したと思われる突然死が1年で100人前後存在すると推定されたため、ドンぺリドンを市場から撤去すべきだと提言したほどです。代替薬としては、プロトンポンプインヒビター(PPI)かメトクロプラミド(プリンペランなど)が推奨されています。以前は主に小児において脱水時に注射剤、坐剤の使用によるQT延長による突然死が、1982~1985年の3年間で17例報告され、7例は死亡しています。注射剤は販売中止になりました。高齢者、特に女性、パーキンソン病においてはフレイルで衰弱している患者さんが多く、常時脱水リスクがあり、その上に神経系の薬剤がいくつも多剤併用されている状況ですので、たとえ内服薬でもQT延長による突然死のリスクが高くなるのは間違いないでしょう。
明らかにリスクの高い薬剤の長期連用によって、原因不明の突然死、あるいは救急搬送されている事例は数えきれないほど存在すると推定されますが、「高齢だから仕方がなかったね」という事で闇に葬られているのではないか。
最近、パーキンソン病に長期罹患している高齢者75~80歳の患者さんの薬手帳をみると、判で押したように、ドンペリドンが処方されています。この1年だけでも10名程度はいたでしょうか?なぜこの薬を服用する必要があるのか?私には理解できなかったので、当然のごとくほぼ全例で減量~中止しましたが、特に中止して問題は起こっていないようです。神経学会作成の「パーキンソン病治療ガイドライン」によると、「ドンペリドンは脳内移行が極めて低いために、パーキンソニズムの発現・増悪頻度は極めて低いので、制吐剤として推奨される」と記載されています。元々、パーキンソン病という病気は、運動症状が発症する何年も前から、延髄へのシヌクレイン(病気の原因と推定されているタンパク質)蓄積による迷走神経背側核の障害があり、胃腸(消化管)の動きが悪くなる傾向があります。パーキンソン病治療薬としてよく使われる、レボドパやドパミン・アゴニストにも副作用として消化器症状があるため、いわゆる患者さんが薬を飲むのを嫌がらないため、副作用出現防止目的で処方される、典型的な薬剤カスケードの処方薬です。ご存知のように薬剤カスケードがポリファーマシーの入り口になります。初期の治療薬の導入時、2~4週間の期間限定であれば納得できますが、ありえないことに、このドンペリドンを何年も長期にわたって飲まされているのです。私はこのドンペリドンを長期間飲ませれている患者を診たら、まずは心電図の検査をします。それはコリンエステラーゼ阻害薬の場合と同様です。心電図のQT時間が0.47以上で黄信号、0.48以上で赤信号のレベルです。赤信号だと突然死につながる致死性不整脈のハイリスクレベルになります。
75歳以上の高齢者に対しては、安易に処方できる薬ではないことがわかっていただけるのではないでしょうか?また漫然とこの薬を継続されている場合は注意が必要です。どうしても継続しなければならない場合は、心臓不整脈による突然死のリスクに関して患者さん側に十分にインフォームドコンセント(説明)する必要があると思われます。
にもかかわらず、4~5年も無意味にこの危険な薬を継続する意味はいったいどこにあるのでしょうか?パーキンソン病を長年患っている高齢者はただでさえ、自律神経不全に至っているため、心臓突然死のリスクが高いです。それはMIBG心筋シンチグラムという検査ではっきりと証明されています。
余談ですが、コリンエステラーゼ阻害薬にもこの「QT延長症候群」という危険な副作用はよくみられます。原因薬剤を中止して2週間してから心電図を撮り直すと、QT時間は正常域に戻っています。
コリンエステラーゼ阻害薬 (ドネぺジル、ガランタミン、リバスチグミン)とドンペリドンあるいはリスぺリドンを心臓の弱っている高齢者に併用したらどうなるか? 低く見積もっても、1.6倍×1.6倍で2.56倍!!私自身はとてもそんな恐ろしい処方はできないと考えています。コリンエステラーゼ阻害薬による消化器症状(嘔気など)は実際言われているよりもはるかに少ないと思いますので、わざわざドンペリドンを併用する意味はないと思います。心臓突然死の安全性を考慮すれば、百歩譲ってPPIかメトクロプラミドの頓服用処方でしょうか?消炎鎮痛剤(ロキソプロフェンなど)に胃薬を併用するくらい意味のない処方だと思います。私は自験例においてドネぺジル、ガランタミンで消化器症状が出現した症例を検証してみましたが、他の医者による併用薬の影響、肝機能障害、腎機能障害でした。ただしガランタミンの場合は、むしろ緩徐な消化器症状によって、食欲低下~体重減少のほうが要注意のようです。そういう副作用を予防するために、心臓リスクを冒してドンペリドンをずっと併用してまでも、ガランタミンやドネぺジルを処方する意義がどれほどあるのかと考えるとはなはだ疑問だと思います。
ドパミン・アゴニストにも言えることですが、病気そのものの進行を止める効果があるわけでもない薬を、危険な薬剤カスケードをしてまでも無理に服用する必要があるのでしょうか?よくよく考え直したほうがいいでしょう。



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# by shinyokohama-fc | 2017-06-02 12:13 | 治療
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